特別養護老人ホーム(特養)と介護老人保健施設(老健)の違いとは?目的、サービス、費用を徹底比較
はじめに
高齢者の介護施設には様々な種類があり、それぞれの特徴や費用体系が複雑で、どの施設を選べば良いか迷われる方も少なくありません。特に、公的な介護保険施設である「特別養護老人ホーム(特養)」と「介護老人保健施設(老健)」は、名称が似ていることもあり、混同されがちです。
しかし、この二つの施設は設立の目的や提供するサービス、入居期間などに大きな違いがあります。これらの違いを理解することは、ご本人やご家族にとって最適な施設を選択するために非常に重要です。
この記事では、特別養護老人ホーム(特養)と介護老人保健施設(老健)について、それぞれの特徴、目的、サービス内容、そして費用構造を詳しく比較解説します。この記事を通して、両施設の正しい理解を深め、適切な施設選びの一助としていただければ幸いです。
特別養護老人ホーム(特養)とは
特別養護老人ホーム(特養)は、社会福祉法人や地方公共団体が運営する公的な介護保険施設です。主な目的は、在宅での介護が困難な方が長期にわたって生活を送る「生活の場」を提供することにあります。
- 目的: 長期入所による生活支援、終の棲家としての機能。
- 対象者: 原則として、要介護3以上の方。やむを得ない事情がある場合は要介護1または2の方も入居できる場合があります。
- サービス内容:
- 食事、入浴、排泄などの日常生活の介護
- 機能訓練(リハビリテーション)
- 健康管理、医療的なケア(医療機関との連携)
- レクリエーションや行事の実施
- 看取りケアに対応している施設も多くあります。
- 入居条件: 常に介護が必要で、自宅での介護が困難であると判断された方。
- 待機状況: 費用が比較的安価であることなどから、待機者が多い傾向にあります。
介護老人保健施設(老健)とは
介護老人保健施設(老健)は、医療法人や社会福祉法人などが運営する介護保険施設です。特養とは異なり、主な目的は、病状が安定期にある要介護高齢者に対し、リハビリテーションを中心としたケアを行い、家庭への復帰(在宅復帰)を目指すための施設です。
- 目的: リハビリテーションによる身体機能の回復、在宅復帰支援。
- 対象者: 要介護1以上で、病状が安定しており、リハビリテーションが必要な方。
- サービス内容:
- 医学的管理下でのリハビリテーション(理学療法、作業療法、言語聴覚療法など)
- 看護、介護
- 日常的な医療ケア(喀痰吸引、経管栄養などに対応可能な施設が多い)
- 日常生活の介護
- 栄養管理、食事提供
- 入居条件: 入院するほどではないが、医療的なケアやリハビリテーションが必要な方。
- 入居期間: 原則として3ヶ月から6ヶ月程度の短期入所が想定されています。定期的に入居継続の要否判定が行われます。
特養と老健の主な違いを比較
特養と老健の重要な違いをまとめます。
| 比較項目 | 特別養護老人ホーム(特養) | 介護老人保健施設(老健) | | :----------------- | :-------------------------------------------------- | :-------------------------------------------------- | | 主な目的 | 生活の場、長期入所、終の棲家 | 在宅復帰に向けたリハビリテーション | | 対象者 | 原則 要介護3以上 | 要介護1以上 | | 提供サービス | 生活介護、機能訓練、健康管理、看取り対応が多い | リハビリテーション中心、医療ケア、看護、介護 | | 入居期間 | 長期 | 原則 短期(3ヶ月~6ヶ月程度) | | 医療体制 | 協力医療機関との連携が主 | 医師・看護師が常勤、医療的なケア体制が充実 | | 運営主体 | 社会福祉法人、地方公共団体 | 医療法人、社会福祉法人など | | 待機状況 | 待機者が多い傾向 | 比較的入所しやすい施設もある | | 費用(目安) | 公的施設のため比較的安価 | 特養よりやや高め(医療費・リハビリ費用などが含まれる) | | 看取り | 対応している施設が多い | 在宅復帰が目的のため、看取りは少ない |
費用に関する詳細比較
特養と老健の費用構造には違いがあります。どちらも公的施設であるため、費用は比較的抑えられますが、月額費用には差が生じます。
1. 初期費用
- 特養: 入居一時金などの初期費用は基本的に不要です。敷金や保証金が少額必要な場合がありますが、有料老人ホームのような高額な初期費用はありません。
- 老健: 特養と同様、基本的に初期費用は不要です。
2. 月額費用
月額費用は、介護保険サービス費の自己負担分に加えて、居住費、食費、日常生活費などを合算したものです。施設の設備やサービス内容、お部屋のタイプ(多床室か個室か)によって異なります。
- 特養:
- 月額費用の目安は、要介護度や部屋タイプ、所得によって異なりますが、5万円から15万円程度が一般的です。
- 費用内訳は、居住費(家賃相当額)、食費、介護サービス費の自己負担分(通常1割)、日常生活費などが主です。
- 居住費は、多床室(相部屋)が最も安く、従来型個室、ユニット型個室(1ユニット数名~10名程度の共同生活室と個室があるタイプ)の順に高くなります。
- 老健:
- 月額費用の目安は、要介護度やサービス内容によって異なりますが、特養よりやや高く、8万円から20万円程度が一般的です。
- 費用内訳は、居住費(滞在費)、食費、介護サービス費の自己負担分、日常生活費などに加え、医療費やリハビリテーション費用が含まれる場合があります。
- 老健は多床室が多い傾向にあり、居住費は特養の多床室と同程度か、やや高くなることがあります。
3. 介護費用(介護保険自己負担分)
- 特養、老健ともに、かかった介護サービス費用の1割(所得に応じて2割または3割)が自己負担となります。
- 老健では、提供される医療行為やリハビリテーションの種類・頻度によって、自己負担額が変動することがあります。
4. 公的な費用補助制度
経済的な負担を軽減するための公的な制度があります。
- 高額介護サービス費: 同じ月に利用した介護サービスの自己負担額の合計が、世帯の所得に応じて定められた上限額を超えた場合、その超えた分が払い戻される制度です。特養、老健どちらの利用でも対象となります。
- 特定入居者介護サービス費: 低所得者の方の居住費や食費の負担を軽減する制度です。所得や資産状況に応じて、負担の上限額が設定されます(補足給付とも呼ばれます)。特養、老健の居住費・食費が対象となります。
- 医療費控除: 一定の条件を満たす場合、施設で支払った費用の一部が医療費控除の対象となることがあります。老健の介護費・食費・居住費は医療費控除の対象になる場合があります。特養の場合は、介護費・食費・居住費は原則対象になりませんが、おむつ代など医療費控除の対象となる場合があります。詳細は税務署にご確認ください。
これらの制度を活用することで、実際の自己負担額を抑えることが可能です。
どちらの施設を選ぶか:検討のポイント
特養と老健は、それぞれ異なる役割を持つ施設です。どちらの施設が適切かは、ご本人の心身の状態、介護度、医療ニーズ、リハビリテーションの必要性、在宅復帰の意向、費用、ご家族の希望などを総合的に考慮して判断する必要があります。
- 長期的な生活の場、看取りまでを希望する場合: 特別養護老人ホーム(特養)が適している可能性が高いです。ただし、入居待ちが多いことを考慮する必要があります。
- 集中的なリハビリテーションを受けて在宅復帰を目指したい場合: 介護老人保健施設(老健)が適しています。医療的なケアが必要な方にも対応可能です。
- 介護度: 要介護3未満の場合は、原則として特養には入居できません。老健は要介護1から対象です。
施設見学や担当のケアマネジャー、地域包括支援センターなどとよく相談し、ご本人にとって最も良い選択をすることが大切です。
まとめ
特別養護老人ホーム(特養)は「生活の場」、介護老人保健施設(老健)は「在宅復帰に向けたリハビリテーション施設」という、それぞれの目的と役割に大きな違いがあります。この違いが、対象者、提供サービス、入居期間、そして費用構造にも影響しています。
施設選びに際しては、まずご本人の現在の状況(介護度、医療ニーズなど)と、今後の希望(自宅で生活したいか、施設で安心して過ごしたいかなど)を明確にすることが重要です。その上で、特養と老健、そしてその他の介護施設の種類についても理解を深め、それぞれのメリット・デメリット、費用などを比較検討することが、最適な選択へと繋がるでしょう。
この記事が、皆様の施設選びの一助となれば幸いです。